J. P. Hogan (ジェームズ P. ホーガン)
また読みたいと思った時に,見つけるための個人的なメモ.ネタバレしまくり.
- 星を継ぐもの (Inherit the Stars, 1978):ハードSFの傑作.3冊続けて読まないと駄目.
- ガニメデの優しい巨人(The Gentle Giants of Ganymede, 1978):いろいろな謎が明らかになる.
- 巨人たちの星 (Giants' Star, 1981):コンピュータと科学の礼讃多過ぎ.
コンピュータやネットワークの記述は今となっては平凡.
- 内なる宇宙 (Entoverse, 1991):三部作の続き.登場人物は同じだが,
中身は計算機の中に別世界があるというまったく別の話.
ただ,ゾラックの台詞とかは前の話を知らないと面白くない.
別世界の人格が,現実世界に出てくることで性格が豹変する.
ソフト的に存在するのでなく,計算機の各素子が原子/分子に相当するという発想.
ということは,これ自身は量子計算機ではないのか.
別世界では,ユークリッド幾何学が成り立たないというのも面白い.
- Mission to Minerva (2005):巨人シリーズの最終話.
あらすじはこちら.うーん,まあまあかなあ.
ブローヒリオのやっつけ方が手抜き過ぎだろう.
多重世界についても適当過ぎ.
別の世界でも同じことをやっているんだから,なぜ自分が中心になるのか.
その他,突っ込みどころが多いのは仕方ないけど,
昔のホーガンならそんなことをものともせずに畳み掛けるような迫力があった.
それに文明論とか人間の本質とかの記述も多過ぎ.
- 創世記機械 (The Genesis Machine, 1978):
大統一理論の緻密な描写,それを起点として地球・天体透視装置,
超爆弾に到る道筋の見事さ,
そして科学の力一つで武力対立を完全に意味のないものにしてしまう.
まさにホーガン.面白い.
(あ,これって「星を継ぐもの」と同じ年なんだ.この頃のホーガンはすごかったんだなぁ.)
- 未来の二つの顔 (The Two Faces of Tomorrow, 1979):
人工知能は,人類の敵となりうるかの実験をするために,
宇宙ステーションを丸ごとコンピュータに管理させて,停電攻撃を加える.
やがて人工知能は人間を攻撃し始める.
まず,最初の事故の解析をしないのがおかしい.これがずっと引っ掛かる.
戦闘シーンの記述が長過ぎる.
そして,自己意識を獲得することが当たり前のように書かれている.
コンピュータに携わる者が読むには興覚めな点が多い.
- 未来からのホットライン (Thrice Upon a Time, 1980):
時間を越えた通信が可能となった.
ただし過去に通信をすると現在がまったく変わってしまう.
人類滅亡クラスの2つの大災害を未然に防ぐために,この時間通信が活躍する.
最初のブラックホールの失敗を取り消すための通信までは良いし,
その失敗に至るまでの過程も面白い.
しかし次の伝染病の部分はちょっと都合良過ぎ.まあまあ,かな.
- 断絶への航海 (Voyage from Yesteryear, 1982):
遺伝子を情報化して他の恒星系へと移住させた.
40年後に地球から人類が実際にその星へ到着すると,
地球人とはまったく価値感の異なる文化ができあがっていた.
ホーガンの大好きな個人尊重型で圧制者のない理想の世界の描写が延々と延々と続く.
要はイヤな奴らを反物質砲でぶっ飛ばすだけの話で,
この半分の厚さだったら丁度良いかな,という程度の話.
- 造物主(ライフメーカー)の掟 (Code of the Lifemaker, 1983):
土星の惑星タイタンには100万年をかけて進化した機械生命タロイドの文明があった.
この文明からの搾取を狙う組織の企みを天才詐欺師が阻止する.
主人公が詐欺師というのが面白い.
タロイドの進化過程から自然環境や町並みの記述まで,まさにホーガン.
この風景を漫画か映画で見てみたいなあ.
- 造物主(ライフメーカー)の選択 (The Immortality Option, 1995):
「〜の掟」の続編.
タロイドを送り出した後で絶滅してしまったはずの異星人が,
実はタロイドのDNA内にコーディングされていた.
電子空間内に復活した異星人は,
タロイドの工場 (=自然そのもの) を乗っ取って自らを復活させようとし,
またも天才詐欺師がこれを阻止する.
異星人 (=鳥人間) が面白い.
相手の裏をかくことが能力の証明になるというヒネクれた世界.
ここだけでも読む価値あり.
全体に面白いけど,タロイドが主役でないのが不満.
人工知能ジニアスは不要.ジニアスがだまされる件が都合良過ぎ.
ジニアスがオチと関係ないし,オチ自体にも伏線がなく,かなり唐突.
鳥人間 vs タロイドという形でオチがつけば,
鳥人間は自分が発明したタロイドにやられるということになり最高だった.
だってこのシリーズの主役はタロイドでしょ?
- プロテウス・オペレーション (The Proteus Operation, 1985):
SFというよりスパイアクションもの.
主な舞台は1940年前後のアメリカ・イギリスで,
ナチから世界を救うために1975年と2025年から送り込まれた人達が活躍する.
タイムマシンはおまけでいろいろ疑問は残る.
というか疑問など解消する気は最初からなく,
たまには細かいことは抜きにしてアクションを楽しもうや,ということ.
まあ面白いが,ホーガンっぽさを期待して読む本ではない.
- 終局のエニグマ (Endgame Enigma, 1987):
SFというより謎解きものだが,科学的に解き明かされる謎なので,一応SF.
ソ連が作った宇宙コロニーそのものが巨大兵器である疑いがあり,
2人のエージェントが乗り込んだが,まったくその証拠が見つからない.
実は…
1回目読んだときはアッと思った.2回目でもなかなか面白い.
分冊で長いけど,ややこしい世界なので,きちんと書くとこうなるのかな.
これは,まあまあ.
- ミラー・メイズ (The Mirror Maze, 1989):
ただの(少し近未来の)スパイアクション (本当はスリラーというのか?).
ホーガンのことなので,つまらないわけではないが,
長いし結末もあっと驚くというほどではない.
たぶんもう読まないが,
弁護士の近辺に起きる殺人等が世界規模の大きな陰謀につながっていく話.
護憲党という自由主義の政党が選挙に勝ち,
これまで裏で利益を得ていた組織が護憲党を潰そうとする.
主人公らは,ダブルスパイしたり,世界を飛び回ったりして,これを阻止する.
モヒカンの正体は実は…という所だけ好き.
- インフィニティ・リミテッド (The Infinity Gambit, 1991):
純粋に現代物のスパイアクション.
アフリカのある国での政府軍と保安局とゲリラの3つどもえの戦争.
それぞれが相手の2者を陥れようとして,いろいろな策を講じる.
主人公が活躍してゲリラを勝利に導く.
これはもう本当にSFと関係ない.
- マルチプレックス・マン (The Multiplex Man, 1992):
一人の男の人格が次々と入れ換わる.
前半は平凡な教師 (の人格) が,自分は一体誰なのかという謎を追い掛ける.
後半は超人的スパイ (の人格) が,
人格書き込みシステムの発明者を捕まえようとするが,
いつもすんでのところで逃げられてしまう.
最後のオチはやっぱりね,という所.
例えば脳を科学的に語ったりするようなSFシーンはない.
面白いことは面白いが,どこぞの映画にありそうな話で,
ホーガンが何もこんな話に挑戦しなくても良いのにとは思う.
自分探しをしていたのは実はホーガン自身なのか.
- 時間泥棒 (Out of Time, 1993):
時間がところどころ盗まれて消える.短編なのもあり面白い.
- 仮想空間計画 (Realtime Interrupt, 1995):
脳直結型仮想空間システムにライバルの謀略で送りこまれてしまった主人公が,
実は自分がいるのは現実ではないことに気付き,ある方法で脱出するまでの話.
これはまあまあ面白い.
ただ,こんなAIは出来んだろうと思うと,そこは少し冷めてしまうかな.
- 量子宇宙干渉機 (Paths to Otherwhere, 1996):
量子計算機により,
多元宇宙で同時並行的に起きている事象全部を観測することが可能となり,
最善の手を打てるようになった.
そして実は,人間の脳は量子計算機であり,
人間の直感とは多元宇宙を見渡す能力だった.
さらに… 全体としては面白い.
そんな馬鹿なと思いつつ,オーなるほどと納得させられる感じは,さすがホーガン.
が,「別天地」なるものは無限に存在するはずで,唯一無二のわけがない.
そこのところを何でもいいからへ理屈をこねて欲しかった.
これはなかなか.
- ミクロ・パーク (Bug Park, 1997):
少年2人がマイクロロボットを操縦して,企業乗っ取りや殺人を防ぐために活躍する.
マイクロロボットと微小物体の物理学はSFっぽいが,メインはアクション.
ストーリー的なひねりがあるわけでもないし,イマイチ.
- 揺籃の星 (Cradle of Saturn, 1999):
土星から吐き出された惑星アテナが地球に急接近し,すべてが破壊される.
その大災害の中を主人公が自分のロケットに辿りつくところまでが,
話のほとんどを占める.SFというより災害パニックもの.
惑星同士が接近した時の描写が本物っぽい.
しかし,仮に過去に何回も土星が惑星を吐き出してきたのだとしても,
それが毎回地球にぶつからないギリギリまで接近して,
毎回わずかの生物だけがギリギリ生き延びる程度にまで打撃を与えていたというのは,
ちょっと都合が良過ぎる.
- 黎明の星 (The Anguished Dawn, 2003):
前作の続き.主人公が土星から地球に戻るが,
わずか10数年後の地球人は原始人のような生活をしていた.
さらに地球から脱出した人々が,
「断絶への航海」型の土星社会を旧来の地球型社会にしようと,クーデターを起こす.
スケール感がおかしい.
広大な太陽系の中でこんな小さな惑星同士がうまく関連するわけないし,
数十億年の時間の中でここ数千年にだけこんな事が起きるてのも変.
もっとも前作と続けて読むと,この辺の不自然さは慣れてしまうし,
「断絶への航海」と同じ説明は飛ばして読めば良い.
一方,主人公が苦労して踏破して行くときの地上の状況の描写はそれっぽいし,
一回膨張した地球が収縮したときのヒダが,
今の山脈と海溝だなどというのはSF的に面白い.
感染の話は未消化に終わった感じ.
全体としては,SFというよりはアクションもの.
2010年夏,ホーガンが亡くなった.
3部作の完結編は,残念ながら読めなくなってしまった.
「黎明の星」では,生物を合目的的に作り出した知性の存在が何度も示唆されており,
この辺が中心となって行く予定だったのではないか.
ホーガンの連作は,前の作品の続きを素直に書くことはないので,
単なる地球復興の話ではないはず.
土星を使って太陽系を作り出し生命を作り出した,
その宇宙人が登場するとか,そんな感じかも.
- 火星の遺跡 (Martian Knightlife, 2001): ほぼ関係ない話が2つ(主人公がナイトでKnightlifeなんだろう).
第1部: 人間の瞬間転位技術は実はクローン技術だった.
そこに催眠術による記憶操作などが絡み,相手をだまし一儲けする話.
もう少しホーガンっぽくしてくれれば面白くなりそうな予感もする.
第2部: 火星で発掘された遺跡が地球文明の先祖だった.という話は全然関係なくて,
火星の遺跡を守るために主人公が色々と活躍する話.
SFではないし,呪いを利用してだますなんてのも有りがちな話.
- 未踏の蒼穹 (Echoes of an Alien Sky, 2007):
金星人が,はるか昔のテラ人(=人類)の遺跡を月や地球で見つけた.
テラ人の文明がどのようなものだったのか,どのように滅亡したのかを解き明かして行く.
ちょっと都合がよくない? というところもあるが,まぁまぁ面白い.
進歩派だのジェニンだのの話は完全にいらない.
- Moon Flower (2008):
あらすじはこちら.
惑星群の公転・自転や暦の話は面白いし,Cyreneanというネタも悪くないし,
これは面白くなる要素をかなりもった話だと思う.
が,なんか盛り上がりに欠ける.どこがメインだったのか分からないピンボケ感.
関係ない話が多過ぎ.例えば,Jerriの昔の神話についての仮説は何の意味もなかった.
最後の戦闘シーンは取って付けたような感じ.もったいないなあ.
- Migration (2010):
あらすじはこちら.
これがホーガン最後の作品なのかもしれないが駄作.
奇術師,だまされやすいロボット,いろんな社会の思想論など,「またかよ」の組合せ.
宗教にはまったロボットが宇宙船を爆破しようとするのを,
奇術師がちょいと騙してくいとめる話.
それも最後のオチがひどい.これだけ長い本のオチがこれ?
マジックもほとんど関係ないし,
自律行動モジュール型ロボットも関係ないし,
Plantationで動物に注意しろと何度も言うんだけど関係ないし,
伏線っぽいものがほとんどない.
タイトルからすると,移住先での続編を書く予定だったのかもしれないが,
つまらないものはつまらない.
あと,最後にロボットの心をあっさり消すところを読んで分かったが,
この人はロボットに何の思い入れもないんだな.
以下は未読の長編小説(短編はかなり沢山ある)
- Outward Bound (1999): 224ページ(Amazon評価は中程度)
- The Legend that was Earth (2000): 512ページ(Amazon評価かなり悪い)